食肉用語の解説食肉の食感

食べ物のおいしさは,甘味や塩味,うま味といった舌で感じる化学的な味だけでなく,歯ごたえや舌ざわりのよさ,喉ごしなど,歯,舌,喉などの口内の皮膚感覚で感じる物理的な”味”も,重要な要素とされています。特に,食肉はもちろんその加工品であるハム・ソーセージ,あるいはお米や豆腐,パン,etc. といった固形の食品においては総じて物理的なおいしさが重要視される傾向にあり,その”味”のことを食感,あるいはテクスチャーと総称しています。

食肉は一般的に,「簡単にお箸で切れるような」、「肉汁が溢れるような」あるいは場合によっては「口の中でとろけるような」といった表現に代表されるように,軟らかくてジューシー(多汁)な食感をもつものが好まれます。また一方で適度な歯ごたえや,ざらつきなどのない滑らかさなども重要で,そういった食感が食肉のおいしさを決定づける主要因の一つとなっています。牛肉や豚肉などの食肉は通常,熟成*と呼ばれる期間を経たものが食用に供され,いずれの肉も,と殺後しばらくは死後硬直1)によって硬く,水を保ちにくい状態が続きますが,その後筋肉中の筋原線維2)や結合組織3)の構造が脆弱になることで,少しずつ軟らかく,かつ水分も保ちやすくなっていくと考えられています。牛ではと殺後約2週間かそれ以上,豚では約1週間も経過すると,風味豊かで,軟らかくジューシーな好ましい食感の肉になります。きめ細かなサシが入った大理石さながらの霜降り肉**が好まれるのは,その特徴的な風味もさることながら,筋肉内に細かく入り込んだ脂肪によって結合組織が弱くなり,脂肪の滑らかさだけでなく,筋肉組織そのものの構造的な脆弱さ,すなわち軟らかさが増すためでもあります。実際に脂肪含量が多い肉は軟らかく,多汁性に富んでいるという報告もあります。

こういった筋原線維2)や結合組織3)といった筋肉内の構造体の物理的な強度やその水分保持性(保水性4),あるいは脂肪の含量や分布などに基づく食感は,大きな肉塊をそのまま加工する製品,すなわちハム,ベーコン類のような単味製品ではある程度同様に考えることができますが,一方でソーセージのように一旦組織を壊してしまう挽き肉製品では,結合組織の寄与は比較的弱く,ミオシンやアクチンといった筋原線維のタンパク質や,肉片・肉粒子の結合状態や会合状態に依存する結着性5)も,歯ごたえなどの好ましい食感の発現において重要になると考えられます。

1)死後硬直:動物が死んだあと一定の時間がたって収縮を起こし硬くなること。
2)筋原線維:筋肉の細胞の中にあって収縮を引き起こす構造で,アクチン,ミオシンなどの様々なタンパク質が組み合わさってできています。
3)結合組織:主としてコラーゲン線維からなる支持組織であり,筋肉ではコラーゲン線維の数が多いほど,硬くなるといわれています。
4)保水性:肉が水を保つ性質で,これが高いほど肉を噛んだときにジューシーに感じます。
5)結着性:製品中で肉塊あるいは肉粒子がお互いに接着する性質をいい,その程度は製品の弾力性や保水性の良し悪しに強く影響します。

*「食肉の熟成」参照
**「霜降り」参照

(名城大学  林 利哉)