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食肉・食肉加工品の摂取に関する日本食肉科学会の見解

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食肉・食肉加工品の摂取に関する報道への日本食肉科学会の見解

 

 近年、一般雑誌において「食肉・食肉加工品はがんになるリスクを高めるため、摂取を控えた方がよい」という記事がたびたび掲載されています。これに関して、日本食肉科学会としての見解を以下に示します。

1,国際がん研究機関(IARC)により食肉・食肉加工品ががんのリスクを高めると発表されたことと食肉・食肉加工品摂取の有用性について

 2015年にIARCがそれまでの疫学研究の結果から、赤肉(牛肉、豚肉、羊肉など)をグループ2a (ヒトに対しておそらく発がん性がある)に、加工肉(塩漬け、発酵などの一つの加工工程を経たすべての肉製品(亜硝酸塩の使用とは無関係))をグループ1(ヒトに発がん性がある)に分類しました[1]。また、IARCは赤肉及び加工肉の摂取量と発がん性の関係について、同機関が評価の基とした全世界地域の論文の赤肉摂取量が概ね50~100 g/日/人の中で、加工肉は「毎日継続して1日当たり50 g摂取するごとに、大腸がんのリスクが18%増加する」としています。

 このような発表に対して、農林水産省からは、IARCによる発がん性の分類は、人に対する発がん性があるかどうかの「証拠の強さ」を示すもので、物質の発がん性の強さや暴露量に基づくリスクの大きさを示すものではなく、同じ分類に割り当てられた物質であっても、暴露の種類と程度など、他の要因によってリスクが大きく異なる、と示されています[2]。また、日本の国立がん研究センターがその内容を解説し、普通の日本人が食べる量の食肉加工品(注1)を摂取してもがんのリスクは上昇しないという見解を発表しました[3, 4]。さらには、IARCによるグループ1には、多くの人が楽しみながら摂取している「アルコール飲料」や、ビタミンD生成による骨の健康維持に不可欠で、様々な健康効果を有する「太陽光」も分類されています。

 

注1:日本人のハム・ソーセージ類摂取量は12.7 g/日/人[5]。日本の摂取量は世界的に見て最も摂取量の低い国の一つであり、IARC発表の摂取量50 gより相当程度少ない水準です。

 

 一方、食肉・食肉加工品はタンパク質、ビタミン、ミネラルを豊富に含み栄養的に優れた食品です。適量摂取することは、子供の成長を促し、大人の健康を守るため必要です。食肉・食肉加工品の摂取を避けることは、特に中高齢者には、サルコペニア(骨格筋重量や筋力が低下する症状)、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)、フレイル(身体的、精神的機能全般の衰えた状態)などになるリスクを高め、健康寿命を短くすることが危惧されます。

 したがって、日本食肉科学会としては、IARCが加工肉をグループ1に分類したことを事実と受け止めつつ、IARCの分類法の意図や、日本人の食肉・食肉加工品の摂取実態から、がんのリスクは上昇しないという国立がんセンターの見解を支持し、食肉・食肉加工品は適度に摂取するのであれば、健康寿命を延ばすことに貢献する有用な食品であると考えます。

 

2,食肉加工品に使用される亜硝酸塩の安全性・有用性について

(1)食肉加工品中の亜硝酸塩の安全性 

 食肉加工品を食べるなという言説で亜硝酸塩がよく悪玉とされます。確かに、亜硝酸塩(多くは亜硝酸イオンとナトリウムの化合物)は食品中に存在するアミン、アミド類と反応してニトロソアミンを含むN-ニトロソ化合物を生成します。このN-ニトロソ化合物に発がん性があることは1950年代に報告されました[6, 7]。亜硝酸塩は古くから食肉製品の保存性を高め、好ましい色調を保つために使用されてきましたが、健康への影響を確認することを目的に、1970年代に食肉加工品中のN-ニトロソ化合物含量が調査されました。その結果、その含量は検出限界(0.5 ppb)以下で、動物実験での発がん最低必要量の1/1000以下でしたので、ヒトではよほど過剰に食肉加工品を摂取しない限り、N-ニトロソ化合物によるがんは発生しないと考えられました[6]。

 また、食肉加工品の製造で亜硝酸塩を添加する場合には、健康に影響しないように、残存する亜硝酸根(亜硝酸イオン)が70 ppm以下(注2)となるように食品衛生法で規定されています[7, 8]。

 

注2:食品衛生法で規定されるこの基準値は、それを守って製造された食肉加工品を普通の日本人が一生食べ続けたとしても、亜硝酸塩が原因と考えられるがんは発生しないように決められています。

 

 なお、実際に流通している食肉加工品中の亜硝酸塩含有量は食品衛生法の基準よりかなり低い値となっています。また、食肉加工品の亜硝酸塩含有量の水準は、野菜やその加工品(注3)などと比較しても相当程度低い値となっています。

 

注3:野菜に含まれる硝酸塩は口の中や環境中の微生物の働きで還元されて亜硝酸塩になります。野菜を摂取したときの栄養的メリットが大きいため、野菜の硝酸塩の量を限定するための基準値は定められていません[8, 9, 10]。

 

(2)食肉加工品中の亜硝酸塩の大事な働き[11, 12]

 食肉加工品の製造時の亜硝酸塩添加には、次の大事な働きがあります。

 

  • 亜硝酸塩は致死性の毒素を生成するボツリヌス菌の増殖を防ぎ、保存性を高めます。
  • 亜硝酸塩は食肉加工品の好ましい赤色および桃赤色を生成させます。
  • 亜硝酸塩は前記の赤色および桃赤色を維持することで体に有害な脂質酸化物の生成を防ぎ、保存性を高めます。
  • 亜硝酸塩は食肉加工品特有の好ましい風味をもたらします。

 

 これらの科学的事実から、日本食肉科学会は、食肉加工品における亜硝酸塩の安全性について懸念はないことをお伝えするとともに、国民の皆さまの健康にとって重要なタンパク質の供給源である食肉加工品を美味しく、また楽しく消費されることを期待しています。

 

引用文献

1) International Agency of Research on Cancer (IARC), 2021,  https://www.iarc.who.int/wp-content/uploads/2018/07/pr240_E.pdf (2025年10月2日引用)

2) 農林水産省:国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について、2025,https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/iarc.html (2025年12月4日引用)

3) 国立がん研究センター:赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて、2015, http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2869.html (2025年10月2日引用)

4) 食の安全と安心を科学する会, 2015, 食肉・加工肉の安全性について, https://nposfss.com/qa/q05/ (2025年10月2日引用)

5) 厚生労働省:令和5年国民健康・栄養調査報告 第一部 栄養摂取状況調査の結果、2023, p.70 (2025年10月7日引用)

6) 三輪操、1996、肉の科学(沖谷明紘 編)、pp.185-188, 朝倉書店、東京.

7) 若松純一、岡山高秀、2005、乳肉卵の機能と利用(阿久澤良造、坂田亮一、島崎敬一、服部昭仁 編)、アイ・ケイコーポレーション、東京、pp.244-253.

8) 食品安全委員会、Q&A詳細 「亜硝酸ナトリウム(発色剤)について」https://www.fsc.go.jp/fsciis/questionAndAnswer/show/mob07005000017 (2025年10月2日引用)

9) 農林水産省、「食品安全に関するリスクプロファイルシート(化学物質)」, p.12, 151202_nitrate.pdf (2025年10月2日引用)

10) 食品安全委員会、食品安全関係情報詳細 「香港食物環境衛生署食物安全センター、リスク評価研究「調理済み野菜の貯蔵後の亜硝酸塩含有量の変化」に関する調査の報告を公開」食品安全関係情報詳細 (2025年10月16日引用)

11) 山本克博、2015,肉の機能と科学(松石昌典、西邑隆徳、山本克博 編)、pp.134-141,

12)  西邑隆徳、2005,乳肉卵の機能と利用(阿久澤良造、坂田亮一、島崎敬一、服部昭仁 編)、アイ・ケイコーポレーション、東京、pp.197-201.

 

理事長 松石 昌典(日本獣医生命科学大学教授)

2025年12月8日

 

 

 

2025年12月08日