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【シンポジウム報告】2025年日本食肉科学会秋季シンポジウム

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多くのご協賛を頂き日本食肉科学会2025秋季シンポジウムは2025年9月15日(月)に岐阜県のじゅうろくプラザを会場とし、対面開催されました。ご協賛下さいました企業関係各位に厚く御礼申し上げます。

林利哉会員の進行による開会式では、松石昌典理事長から、参加者への感謝とともに楽しい活発な討議への期待が述べられ、また、メルボルン大学からお招きしたWarner教授に向けての英語の挨拶もあり、和やかな雰囲気の中開会しました。

開会の挨拶をする松石理事長

開会の挨拶をする松石理事長

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特別講演1 「酵素で目指す植物性代替肉の高機能化」

天野エンザイム株式会社 イノベーション本部  研究員 酒井杏匠氏

(座長:宮口右二会員)

 

本講演では、まず会社の概要が紹介された後、背景として「プロテインクライシス」によるタンパク質供給不足の懸念と、それに伴う植物性代替肉市場の発展について解説されました。しかし現状では、植物性代替肉と畜肉の間に嗜好性のギャップがあり、消費者受容性向上のためにはさらなる改良が必要であることが指摘されました。本講演の中心では、ラッカーゼという酵素を用いた植物性代替肉の機能改善技術が紹介されました。ラッカーゼ処理によって結着性が高まり、肉様の食感やジューシーさが向上したほか、食肉同様に加熱による色調の変化も認められ、植物性代替肉の品質向上および市場拡大に貢献することが期待される素晴らしい技術であると感じました。質疑応答では、植物性代替肉市場の今後について質問が寄せられ、一時期に比べて市場はやや縮小傾向にあるものの、今後は「より本物の畜肉に近い品質」を実現できる企業や製品が生き残っていくと考えていると述べていました。

質疑対応中の酒井氏

質疑対応する酒井氏

 

特別講演2 「食材の超音波洗浄」

東京大学大学院新領域創生科学研究科 准教授 尾田正二先生

(座長:島田謙一郎会員)

 

本講演では、尾田先生がメダカを対象とした放射線生物学を専門としていた経歴が冒頭で紹介され、人の健康や安全を守る視点をもってこれまで研究されていることを経験に基づいてユーモアを交えてご説明されました。これまで魚介類や食肉といった動物性食品には普及していなかった超音波洗浄技術を、適度に弱い超音波を用いることで魚介類や肉類にも適用可能であることを実証した内容が紹介されました。具体的には、超音波洗浄により食肉や魚介類の表面から生臭さや余分な脂質を除去できることが示され、風味の改善が認められたことが説明されました。また、食品トレー由来の化学物質が鶏肉から検出される事例を示し、超音波洗浄によってそれらを低減できることも紹介されました。ヒトが摂取する必要のないものや余分な栄養素を除き、より安全で美味しい食品を提供できる可能性が示され、講演全体を通してユーモアあふれる語り口が印象的でした。

質疑対応中の尾田先生

質疑対応する尾田先生

 

特別講演3 「スケソウダラタンパク質の筋肉重量増加効果―機構の検討とヒトにおける応用の可能性―」

愛媛大学大学院農学研究科 教授 岸田太郎先生

(座長:水野谷航会員)

 

本講演では、スケソウダラ由来タンパク質(APP)の筋肉重量増加効果とその作用メカニズムについて解説されました。まず、高脂肪食摂取時にAPPを併用することで骨格筋の速筋化と重量増加が生じることが報告され、その後の検討では通常食下でも同様の現象が確認されたとのことです。さらに、2~7日間という短期間の摂取においても筋線維サイズの増大が認められたことが紹介されました。この筋肥大はIGF-1依存的ではなく、ユビキチンリガーゼおよびmyostatinの発現抑制を介した、筋タンパク質合成の促進と分解の抑制が関与していることが示されました。加えて、本研究に賛同した研究者によるAPP研究会の取り組みとして、APPを摂取したラット骨格筋におけるトランスクリプトーム解析・プロテオーム解析の結果が紹介され、運動トレーニングに類似したmRNAの変動が確認され、また、結合組織、アポトーシス、細胞増殖などに関連する経路に関与していることが明らかにされました。さらに、動物実験で得られた知見を基盤として臨床試験も開始されており、すでに1~3か月間の摂取で筋力および筋量の向上が確認されています。こうした成果により、実用化に向けたエビデンスが着実に蓄積されていることが示されました。近い将来、スケソウダラタンパク質の筋肥大機能を訴求した製品化が実現することを期待します。

岸田先生の発表の様子

岸田先生の発表の様子

 

特別講演4:国際会議の参加報告 「第71回国際食肉科学技術会議(ICoMST2025)スペイン大会に参加して」

九州大学大学院農学研究院 准教授 鈴木貴弘先生・助教 横山壱成先生

(座長:有原圭三会員)

 

本講演では、8月3日から8日にかけてスペインで開催された第71回国際食肉科学技術会議(ICoMST2025)に、本学会の派遣助成を受けて参加された鈴木先生と横山先生より、大会参加の報告がありました。まず横山先生からは、大会の組織体制や学会スケジュール、プログラムの概要について説明がありました。本会議は「Real Meat, Real Care」をテーマに掲げ、伝統的な食肉産業を守りつつ、革新的な研究による持続可能な未来への挑戦を目指すものであることが紹介されました。そのほか、ポスター発表の様子やスペインでの食事(例:マクドナルドでの生ハム提供)や市場の様子も報告されました。

横山先生の発表の様子

横山先生の発表の様子

続いて鈴木先生からは、テクニカルツアーの内容(生ハム工場の見学、歴史的村落Sant Privat d’en Basの見学、ジローナ旧市街地ツアーなど)が紹介されました。また、松石理事長とともにコンタクトパーソンミーティングに参加されたことが報告され、参加者の集計(計495名:一般登録315名、基調講演者11名、学生132名、同行者37名)、次回開催地である韓国の準備状況、さらには2027年セルビア、2028年ニュージーランド大会に向けた準備の進捗についても共有されました。最後に、参加して感じられたこととして、朝から晩まで食肉科学に触れる充実感、現地参加だからこそ得られる研究熱量、海外研究者とのコラボレーションの重要性が挙げられました。特に若手研究者や学生に対し、積極的に参加して国際的な視野を広げることの重要性が強調されました。また、学会からの派遣助成の対象人数を増やすことや、企業研究者への助成枠拡大といった支援策についても提案がありました。スペイン大会は大変有意義なものであったことが伝えられ、次回以降の大会においても多くの若手研究者が積極的に参加されることが期待されます。

鈴木先生の発表の様子

鈴木先生の発表の様子

 

特別講演5:海外研究者招聘 「New insights on the influence of fibre type and associated chemical and structural attributes, on beef and pork quality traits」

University of Melbourne Prof. Robyn Warner

(座長:松石昌典会員)

 

本講演では、メルボルン大学のRobyn先生より、筋線維タイプと食肉の質の関連について解説がありました。まず、豚肉における筋線維タイプと肉質に関するメタ解析の結果が紹介され、Type Iの比率が高い豚肉は官能的にやわらかく、ドリップロスが少ないことが示されました。一方で、Type IIaは硬さと関連し、Type IIbはドリップロスの増加と関連していることが報告されました。次に、牛の咬筋(酸化的筋)と皮筋(解糖的筋)を比較した示差走査熱量測定(DSC)解析の事例が示され、酸化的筋では非典型的な熱分析曲線が観察されミオシン変性が強調されたのに対し、解糖的筋では典型的なピークが確認されました。これにより、筋線維タイプの違いがタンパク質変性温度(Tmax)や加熱特性に反映されることが明らかとなりました。また、食肉におけるshrinkage(横方向・縦方向の収縮)については、熟成期間(1日〜14日)による体積収縮への大きな影響は認められませんでしたが、カテプシンを阻害すると筋線維の長さ収縮や体積増加が抑制されることが示され、加熱中の筋線維変化に酵素活性が関与している可能性が示されました。さらに、バークシャー豚(Heritage)は商業用交雑種(LW×LR)に比べて酸化的線維(Type I)の割合が高く、pHの安定、ドリップロスおよび加熱損失の低減、剪断力の低下が認められました。また、ミオシンの変性温度(Tmax)が高く、肉質(やわらかさや保水性)に優れていることも報告されました。鹿児島の黒豚の美味しさの秘密も筋線維タイプにあるのかもしれませんね。続いて、CATA(Check-All-That-Apply)分析によって筋線維タイプと官能特性との関連が検討され、解糖的筋は「淡白、酸味、乾燥」と、酸化的筋は「やわらかい、甘い、バター風味」と関連し、中間型筋は「繊維質、噛みごたえ」と関連するなど、筋線維タイプごとに明確な官能特性の差異が示されました。最後に、筋線維タイプと香気成分との関連についても触れられる予定でしたが、時間の都合により講演内では紹介されませんでした。筆者自身も筋線維タイプに関する研究に取り組んでいますが、本講演で新たな手法や知見に触れることができ、この分野の奥深さを改めて実感しました。

Robyn先生の発表の様子

Robyn先生の発表の様子

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閉会挨拶

辰巳隆一副理事長より閉会の挨拶をいただきました。特別講演への謝辞が述べられるとともに、本学会において広い意味でのミートサイエンスが活発に議論されていることを大変喜ばしく思う、今後益々発展して欲しいとの期待の言葉が述べられました。また、伊藤記念財団への謝意も述べられ、シンポジウムは盛会のうちに結びとなりました。

閉会の挨拶をする辰巳副理事長

閉会の挨拶をする辰巳副理事長

 

意見交換会

シンポジウム終了後には意見交換会が開催されました。功労会員である坂田亮一会員および押田敏雄会員に対し、記念のクリスタルが授与されました。また、Robyn先生とお話しする機会があり、「なぜこの学会には女性研究者や若手研究者の参加が少ないのか」との問いかけがありました。筆者は回答に困ってしまい、「今後活性化できるよう努力します」と答えることしかできませんでした。この点の活性化に向けて尽力していきましょう。

交流会の最後に記念写真を撮りました

意見交換会の最後に記念写真を撮りました

2025年09月26日