日本食肉科学会HOME > ニュース > 【大会報告】第63回大会

【大会報告】第63回大会

Newsイベント告知・イベントレポート

多くのご協賛を頂き日本食肉科学会大会は2022年3月26日(土)に神戸国際会議場を本部においてオンライン開催されました。ご協賛下さいました企業関係各位に厚く御礼申し上げます。

セッションI(Zoom参加者95名以上)では、北海道大学の若松純一会員の進行で、前後半に別れてポスター発表がおこなわれました(前半10:00-11:00、後半11:00-12:00)。発表および討論は、大会参加登録者がオンラインでアクセス可能なe-ポスターの閲覧と、Zoomミーティングのブレイクアウトルーム機能により実施されました。8題の若手優秀賞応募を含む計17題の発表があり、各発表ルームでは活発な討論がみられました。

 

午後からのセッションII(Zoom参加者100名以上)では、坂田亮一理事長による開会挨拶およびこの1年間の日本食肉科学会としての活動のスタートと事業推進の報告、海外講演者の招待など本大会の充実したプログラムについて紹介されました。

 

続いてのセッションⅢおよびⅣ(受賞講演および一般研究発表)は茨城大学の宮口右二会員および新潟大学の西海理之会員の司会進行で実施されました。

セッションIII(Zoom参加者105名以上)では、国内研究者による特別講演(Zoomウェビナー形式)が催され、兵庫県立農林水産技術総合センターの岩本英治会員が『但馬牛・神戸ビーフ〜ブランドを支える試験研究〜』という演題でご講演されました。座長の坂田亮一理事長の進行で、岩本会員のご略歴の紹介がありました。

ご講演では「神戸ビーフは輸出量増加や「世界で最も高価な9種類の食べ物」にランクインするなど、世界的な広がりを見せています。神戸ビーフの素牛である但馬牛の魅力を維持するために「閉鎖育種」のもとで産肉能力の改良や遺伝的多様性を確保するために取り組んでいます。また、美味しさの改良のため、オレイン酸含量や霜降りの細かさを評価し、但馬牛の出荷に関わる食肉市場ではこれらを測定する体制を整えています。香気成分にも着目し、但馬牛では甘い香りを呈するラクトン類が高い濃度で含まれることがわかり、引き続き但馬牛の香気成分の改良を進めていきます。また、ルーメン内環境と肉質の関わりについても研究を進めています。これらの但馬牛・神戸ビーフの美味しさは兵庫県と様々な協力機関とのコンソーシアム体制により支えられており、引き続き世界にアピールできるエビデンスとして活用していきたいです。」と話がありました。ICoMST2022神戸大会では、この神戸ビーフを堪能できることを楽しみにしています。

 

セッションIV(Zoom参加者105名以上)では、酪農学園大学の岩崎智仁会員による第6回伊藤記念財団賞受賞講演(共催(公財)伊藤記念財団)がおこなわれました。本講演は『食肉加工への超高圧利用、新規顕微鏡による食肉の顕微解析ならびに鶏の異常硬化胸肉に関する研究』と題され、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の佐々木啓介会員を座長として、進められました。

ご講演では受賞に関する3つの研究課題のうち、食肉加工への超高圧利用および新規顕微鏡による食肉の顕微解析について簡潔な成果報告の後、「肉用鶏で発現する異常硬化胸肉の組織学的な特徴として、免疫系細胞の浸潤、脂肪・結合組織の増加、ミトコンドリア異常が観察されることを明らかにしました。その原因として、過度な筋肥大による虚血状態に伴う活性酸素種の増加が考えられます。異常硬化胸肉は外観から食用に適さないとされていますが、食品としての利用価値を見出すために、官能評価や理化学的特性を解析し、利用の可能性を見出しました」と知見が紹介されました。組織学的な食肉構造の評価が印象的であり、さらなる研究の発展が期待されます。

 

セッションⅤ(Zoom参加者105名以上)では、一般研究発表4題の口頭発表がありました。

1演題目として、横山会員から『放牧飼養が日本短角種牛肉の代謝物質に及ぼす影響(横山壱成1,小笠原英毅2、小宮佑介1、長竿淳1、有原圭三1 [1北里大学獣医学部、2北里大学獣医学部フィールドサイエンスセンター])』について発表がありました。

「舎飼いで生産された牛肉に比べ放牧牛肉で呈味成分や加熱香気成分が多いことを明らかにしてきました。遊離アミノ酸やグルコースなどの、呈味成分や香気の基質が増えていることが、放牧による香気等の変化の原因と考えています。今回、飼養条件がこれらの代謝物質に及ぼす影響を明らかにするために、夏山冬里方式で生産された日本短角種の、舎飼い期に出荷された牛肉と放牧期に出荷された牛肉を、GC/MSメタボローム解析により比較しました。その結果、グルコースやマルトースの含量は放牧牛肉で多く、メイラード反応における香気成分の生成量および味覚センサ解析における甘味の値と正の相関を示し、メチオニン、トリプトファンや放牧草に由来するような物質の含量も放牧牛肉で多く、これらは味覚センサ解析における苦味雑味と正の相関を示すことも明らかとなりました。」と発表がありました。

 「代謝物質の違いは放牧による飼料の違いに由来しますか、あるいは運動量の違いに由来しますか」と質問があり、ファイバータイプを調べたが違いはあまり見られなかったので飼料の違いと考えています、とのことでした。また、牛の出荷時期の影響を考慮する必要や、消費者が放牧牛肉に期待するパストラルフレーバーについて意見がありました。

 

2演題目として、和賀会員から『ミオグロビンとミトコンドリアの相互作用(和賀正洋1,2、中出浩二1、芳山公一1 [1伊藤ハム米久HD㈱中央研究所、2麻布大学獣医学部])』について発表がありました。

「光は食肉の退色を誘導しますが、オキシミオグロビンの光感受性は極めて弱く、食肉の光退色にはミオグロビン以外も関係していると考えられることから、ミオグロビンと共局在しているミトコンドリアの関係について調べました。牛肉抽出液のメト化の励起スペクトル(約450 nmと約600 nmにピーク)は、ミトコンドリア複合体IVに存在するシトクロムaの吸収スペクトルに似ており、また、ミトコンドリアを加えた牛肉抽出液では450 nm光の照射により明らかに酸化が進行しました。また、ミオグロビンによるミトコンドリア酸素消費活性の強化、ミトコンドリアによるミオグロビンの酸素親和性の低下を確認しました。」と報告がありました。

「部位ごとの退色しやすさの違いに関係していますか」「輸出時の品質管理に役立ちますか」など質問があり、シェルフライフ延長などSDGs達成に貢献する技術に繋がることが期待されます。

 

3演題目は、加藤会員から『美味しさ分析によるブランド肉の差別化(加藤 美紗子 [日本ハム(株)中央研究所])』についての発表が行われました。

「400種類ほどある豚肉ブランドを消費者が自身の好みに合わせてより簡単に選び出すことは困難です。そこで本講演では、“美味しさ”を理化学的に分析し、従来の“定性的表現”だけでなく“定量的な情報”も商品に提示することで、ブランドの数値化や見える化を目標」とした研究内容でした。「7種のブランド豚のロースを用いて、味(遊離アミノ酸)、香り(脂肪酸)およびテクスチャー(破断強度)を測定しました。遊離アミノ酸総量と脂肪酸組成がブランド間で異なり、前者は熟成期間、後者は飼料や飼養環境の違いに起因するのでは」と考察されていました。破断強度には、ブランド間で差がなかった点は興味深かったです。

Q&Aでは、多くの質疑応答が行われ、特にマーケティングも考慮した今後の研究展開について熱い議論が交わされました。

 

4演題目は、留村会員から『ブロイラーの筋肉および可食部位の経時的なうま味強度の変化(留村泰次1,笹野有唯2、對比地美妃2、石田真澄1,江草愛2 [1鳥貴族ホールディングス, ,2日本獣医生命科学大学])』についての発表が行われました。

「従来、家禽肉は他の畜種と比較して鮮度を優先した提供体制がとられてきましたが、現在の徹底した衛生管理や温度管理技術の向上によって屠鳥後の消費期限が延びたため、熟成期間を設けることが出来るようになりました。そこで今回、筋部位ならびに内臓などを含む可食部位の熟成過程における、うまみ強度と酵素活性の変化を調べ、それぞれに適切な熟成期間や熟成効果について調べました。熟成効果がないものもありましたが、ムネ肉やモモ肉のように熟成でうま味強度が増す可食部位がありました。また、部位によりうま味強度の最高点を示す熟成期間は異なることから、それぞれで適切な期間設定が必要です。」と報告されました。特に、肝臓の熟成が効果的であった点は興味深かったです。

Q&Aでは、全国規模で展開される各店舗において、同レベルで高いうま味強度を示す商品を提供するための方法など、研究成果を実践するための具体的な内容に関する議論などが交わされました。

 

次にセッションⅥ(Zoom参加者100名以上)として、今大会でも海外の著名な食肉研究者2名から特別講演を頂きました。

 

特別講演Ⅰは、松石昌典会員の進行のもと、ICoMST国際事務局長でアイルランド国立食品研究所副研究部長(Teagasc Food Research Centre)のDr. Troyによる『The International Congress of Meat Science and Technology (ICoMST) – A global science-based forum for meat scientists in a time of need(国際食肉科学技術会議(ICoMST)―今必要とされている、食肉科学者のための世界的な科学ベースのフォーラム)』というご講演でした。

まずご講演に先立ち、簡単な自己紹介と、日本で今年開催されるICoMSTの重要性が昨今の世界的課題を受け増している、とご挨拶いただきました。

ご講演(録画放映)には、1955年から続くICoMSTの歴史と毎年の会議内容の概要や、これまでの全ての講演要旨のデジタルアーカイブとして近年整備された「DigiCOMST」の紹介とともに、ICoMSTは食肉産業と食肉科学の世界的な課題解決に貢献する重要な会議であるという強いメッセージがありました。

「大学や研究所の食肉研究者が忘れがちなのが、食肉産業は世界的に重要なセクターであるということです。世界の食肉生産量は需要に応え増えており、これは高い技術と科学の賜物です。食肉科学には今後も予想されている需要増に応える他にも、品質保証や牧草給与・放牧、アニマルウェルフェアなど解決すべき課題、貢献の機会がたくさんあり、そのどれもが私たちの生活に大切なことです。」

「一方、産業現場には研究に割く時間が無く、技術移転の壁があります。この壁を超えるための触媒にICoMSTがなると考えています。産業と科学のコミュニケーションがもっと必要で、食肉科学の持続性の点からも重要です。日本の食肉コミュニティはとても強いと感じますが、世界的にもそうですが、大学との連携が弱いです。ヨーロッパでは科学への要望が強く、近年少し状況が変化してきており、アイルランドでは食肉のやわらかさや食肉処理など産業に近い分野で学と産が結び付いてきています。日本でも、例えば脂肪含量の高い神戸ビーフがアニマルウェルフェアを満たしているかという質問の答えは、感情的な人々が持っているのではなくサイエンスが持っているので、コミュニケーションすることが求められます。」

コミュニケーションの事例として、今年10月にアイルランドで開催予定の国際食肉サミットInternational Meat Summitのご紹介もありました。

質問として、「Dr. TroyやICoMSTが日本の食肉科学に期待していることは何ですか?和牛の特徴についてどうお考えですか。」とあり、それに対して「まず、和牛は世界的に味と多汁性の評価がとても高いと申し上げます。しかし一方で、いくつかの西洋の市場ではその脂肪含量に批判もあります。和牛が健康な食卓にどう貢献するかを明らかにする必要があり、食肉科学は答えを出せると考えます。日本の食肉科学は常に良く考えており、答えを出せると思います。筋生物学の多くの知見も日本人食肉科学者によって創められたものです。」とご見解をいただきました。

食肉科学会には、和牛に多いオレイン酸など脂肪酸組成に注目して研究を進めている会員もおり、海外ニーズへの対応でも貢献が期待できそうです。

 

特別講演IIは、有原圭三会員の進行のもと、Dr. Irina Chernukh(V.M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems of Russian Academy of Sciences[V.M. Gorbatov連邦食品科学研究所]教授)による『In pig we trust – Meat consumption in Russian Federation and introduction of some local pig breeds(In pig we trust-ロシア連邦における食肉消費事情ならびブタ原種の紹介-)』という演題でご講演いただきました。2020年にご講演予定でしたが、新型コロナウィルスの蔓延に伴い大会が中止されたことを受け、2年越しでのご登壇となりました。

ご講演(録画放映)では、まずご自身のプロフィールとご所属先V.M. Gorbatov連邦食品科学研究所について、さらにロシア国内のさまざまな研究機関に関するご紹介がありました。

次いで、本講演の主テーマでもあるロシア連邦内における豚肉に関して、消費動向および生産事情を詳細にご解説くださいました。「現在のロシアにおける食肉消費率の内訳は、鶏肉(国民1人あたり年間平均34 kgを消費)に次いで豚肉(国民1人あたり年間平均26.6 kgを消費)が大半を占めています。豚肉は、過去30年を通してロシア国民の食肉消費率のうち約35%程度を安定的に占める重要な品目です。生産性に関して、2010年ごろまでは世界のトップ10に入る豚肉輸入量でしたが、国内生産量の大幅な増加に伴い2020年には反対に世界トップ10に入る輸出大国となりました。その背景には、豚肉の生産体制が工場化へとシフトし、所謂バックヤード型や牧場型の生産体系と置き換わった点があります。なお輸出先は、中国、ヴェトナムを中心に日本も対象地域に入っています。」

続いて、生産体制の変遷に伴って、ロシア国内で飼育されている豚の品種が減少していった点をご紹介されました。「2000年時点では22品種が飼育されていましたが、2021年では8種まで減少し、飼育頭数の約2%程度しか固有種(Livny、Kemerovo、CivilおよびAltai種)が飼育されていません。大部分は、Large Whiteすなわち大ヨークシャー種(54%)をはじめとして、デュロック(6%)、ランドレース(17%)、そしてヨークシャー(21%)といった商業用品種になります。」また、各品種の形態的特徴とともに、各部位における脂肪組織や脂肪酸組成にフォーカスを当てた見解もご紹介されました。「脂肪の摂取による心血管系など人間の健康面への影響が懸念され、背脂の厚みの少ない豚肉が求められることを踏まえて、飼養技術を通した改変が行われてきました。一方で、近年では脂肪に含まれるコレステロールや脂肪酸の機能性が見出されていること、ソーセージなどへの食肉加工の観点や、なによりも豚自身の健康のために、脂肪を極端に減らすことは不適切とも考えられています。そのため、豚肉における脂肪含有量の増減に関して、双方のニーズに応えることができる固有種の存在が改めて大切と認識しています。」

また最後には、ロシア国内で大変好まれている豚の背脂を使用した料理「Saloサーロ」や、串焼き「Schaschlikシャシリク」などをご紹介され、固有種がこれらの料理ともマッチすることをご説明いただきました。

ロシアの豚肉に関する基礎情報に興味を持たれた会員が多く、質疑応答において輸出事情や人気な食肉加工品についてなど積極的な質問が行われました。

 

今大会も前回に引き続き、オンラインでの開催となりましたが、ポスター発表ならびに各講演はあっという間に過ぎ、閉会の時間となりました。

 

まず、閉会のご挨拶に先立ち、西海会員より若手優秀発表賞表彰が行われました。本大会では、高得点続出のレベルの高いコンペとなったため、異例の3名の方が受賞されました。

  • 松本 麻希さん(新潟大学)、ポスター番号2『深海における長期保存による鯨肉の熟成の可能性~肉質の軟化の促進と微生物の増殖抑制~』
  • 翟 洋さん(北海道大学)、ポスター番号11『Zinc protoporphyrin IX–hemoglobin (ZnPP-Hb) complex in Parma ham is formed by binding ZnPP, which is predominantly converted from heme in Hb, with apo-Hb nonenzymatically』
  • 山之内 海映さん(北海道大学)、ポスター番号14『乳酸菌発酵ドライソーセージにおける亜鉛プロトポルフィリンIX形成と色調に及ぼす各種要因の影響』

受賞にあたりお3方から喜びの声を頂きましたので、ご紹介します。

松本さん「まさか自分が受賞するとは思いませんでした。研究を進める上でお世話になった方々に感謝したいです。自分が勉強してきたことが実って嬉しいです。春から社会人として頑張る励みになります。」

翟さん「ありがとうございます。知識をいっぱいもらえた大会でした。参加できてとても嬉しく思います。今後も是非この大会を開催し続けてほしいです。」

山之内さん「ありがとうございます。びっくりしました、とてもうれしいです。これまでお世話になった方々に感謝したいです。初めての学会発表で、多くの方に会えて刺激を受けました。是非対面でも参加したいです。」

春の息吹を感じさせる明るさと、さわやかさを兼ね備えた若い方々の今後活躍に期待しています。

 

最後に、21年度でご所属先の神戸大学をご退職される山之上会員よりご挨拶いただきました。

はじめに、本大会について総括いただき、本大会は一時的に最大でオンライン108名ならびに拠点会場にて20名ほどが参加されていたこと、また、前回大会は参加費が無料であったのに対して、今回は会費の支払いが必要であったにもかかわらず、多くの方にご参加いただいたことを報告されました。加えて、18社もの企業様にご協賛いただいたことに感謝の意を示され、ご自身の退官にあたって閉会の挨拶の機会を設けられた執行部の先生方へのお礼も述べられました。最後に、いよいよ本年8月に迫ったICoMST2022が同じく神戸で開催されることに言及され、大会開催へのエールとともにご自身も大会成功のためにご尽力される決意を表明され、結びとなりました。

 

以上、第63回大会のご報告とさせていただきます。最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

2022年04月04日