【大会報告】第66回大会
多くのご協賛を頂き第66回大会日本食肉科学会大会は2025年6月20日(金)に麻布大学百周年記念ホールを会場とし、対面開催されました。ご協賛下さいました企業関係各位に厚く御礼申し上げます。
開会式では、松石昌典理事長によるご挨拶が行われ、開会の宣言とともに、多くの参加者への感謝の言葉が述べられました。今回の学会では、研究発表や特別講演、それに続く討論を通じて科学的な知見を深めることの重要性が強調されました。特に、学生や若手研究者による発表に対しては、積極的な議論とエンカレッジするコメントが寄せられることが期待される旨が語られました。また、「真面目で楽しい学会」となるよう、自由で活発な意見交換を呼びかけるメッセージとともに、和やかな雰囲気の中で開会式は締めくくられました。

開会の挨拶をする松石理事長
午前のセクションでは、新潟大学の西海理之会員、九州大学の辰巳隆一会員が進行となり、24題の一般発表に加え、若手優秀発表賞候補者による発表2題も加わり、合計26題のポスター発表が行われました。また、1題はカザフスタンからの参加者による発表がありました。ポスター番号の偶奇で発表時間が前半と後半に割り振られ、各セッション40分間で研究発表をおこないました。筋生理から食肉加工や食文化までさまざまな分野のポスター発表が行われ、会場は終始にぎやかな雰囲気に包まれていました。参加者同士が直接意見交換できる場として、非常に有意義な時間となりました。

ポスター発表の様子
午後のセクションでは、優秀発表候補演題と特別講演2題の発表がありました。
まず、座長の新潟大学の藤村忍会員、宮崎大学の仲西友紀会員、農研機構の尾嶋孝一会員の進行で優秀発表がおこなわれました。今大会より優秀発表は企業部門と若手部門が設けられ、3題の企業部門と6題の若手部門の計9演題が発表されました。各演題は以下の通りです。
<企業部門>
(1)ミオグロビンの酸素親和性が食肉の色調安定性に及ぼす影響
和賀正洋(伊藤ハム米久HD(株)中央研究所)
(2)ソーセージの塩漬フレーバー増強へのヒポキサンチンの関与に関する研究
市村さやか(食肉科学技術研究所)
(3)ビタミンD受容体欠損マウスにおける成鶏骨由来成分の骨形質改善作用
西浦珠央(丸大食品株式会社 中央研究所)
<若手部門>
(4)コアグラーゼ陰性Staphylococcus属細菌添加による発色剤無添加の食肉製品の発色は亜鉛プロトポルフィリンIXに起因する
桑江駿之介(北海道大学大学院農学院)
(5)調理方法の違いによる2品種間の豚肉中水溶性成分の評価
松本和也(プリマハム株式会社・基礎研究所)
(6)畜肉軟化剤を用いた前処理がレトルト殺菌後のバナメイエビの食感に及ぼす影響
三浦宏太(株式会社キティー)
(7)機械的伸展刺激の頻度が筋管の筋線維型組成に与える影響
高野晃正(九大院農)
(8)チョコレート添加飼料の給餌が豚肉の保存中のTBARS値および遊離アミノ酸含量に及ぼす影響
山邉航也(新潟大学大学院自然科学研究科)
(9)Effect of dietary histidine on content of imidazole dipeptides (IDPs) in meat of broilers』
Olga ZINOVYEVA(Graduate School of Science and Technology, Niigata University
続いて特別講演Ⅰとして、第9回伊藤記念財団賞を受賞された北海道大学の早川 徹会員より、受賞講演「ミオシンの水溶化現象の発見とその応用」として、受賞講演がありました。
ご講演では、まず受賞当時の当学会理事長の有原先生や選考委員の先生方への謝意が述べられた後、食肉のタンパク、特にミオシンは「pH7付近で水に溶ける」とのノーベル賞科学者Szent-Györgyiの予言を実験的に証明したエキサイティングな研究のご紹介と、その研究成果の食肉加工への応用や将来の可能性について、示唆ある課題(次なる証明問題?)を頂いた内容でした。
ミオシンは生理的条件では重合し、水や低塩濃度溶液には溶解しないのは常識でした。水溶化できれば食肉加工技術の開発に繋がるので注目されていましたが、先行論文のプロトコルでは上手くいかず、超音波処理や緩衝液中のヒスチジンの関与などを疑い、電子顕微鏡観察や生化学実験を駆使して検討されたそうですが、水溶化のメカニズムの解明は難航したそうです。ところがある時、指導する学生さんとの研究の中で水溶化の敵はpH調整にあることに気が付き、塩酸を加えずに中性を維持できればミオシンは溶解することを発見され、「ミオシンはpH7で水に溶ける」Szent-Gyorgyiの1951年の予言の実験的証明に結び付きました。
水溶化研究の今後として、水溶化処理の食肉加工への応用とともに、「ミオシンは太いフィラメントを形成する」というこちらも良く知られた常識の知られざるメカニズムの解明に、超低塩濃度からのアプローチで挑むご予定とのことです。
座長を務められた、早川会員と同じ北海道大学の若松 純一会員から、早川先生がご苦労されているのを脇で見ていたが、よく気が付いて工夫があり、AIには到底できない研究の醍醐味も味わえました、とご称讃がありました。
水溶化メカニズムの解明までの謎解きをとても面白く追体験できました!面白いご講演をどうもありがとうございます。ご受賞おめでとうございました。

早川会員の講演の様子

ミオシン水溶化に関する発表スライド
特別講演Ⅱでは、海外からの講演者をお迎えして「Meat production, science and technology in Kazakhstan(カザフスタンの食肉生産と科学技術)」というタイトルでSaken Seifullin Kazakh Agro Technical Research University Kazakhstan(カザフスタン農科工科大学)准教授のDr. Kadyrzhan Makangaliにご講演頂きました。
座長の有原会員(北里大学)より、Dr. Makangaliのご経歴として、30歳代半ばで多くのプロジェクトのリーダーとして活躍されていることのご紹介がありました。
ご講演は、カザフスタンで最も大きな大学の一つであるカザフスタン農科工科大学や、学生さん達の楽しそうな様子も伝わる研究室の動画の紹介にはじまり、我々日本人にとって親近感を覚える柔道やカザフスタンの観光地のご紹介も頂いた後に、食肉・畜産の話題となりました。
カザフスタンでは以前は馬、牛、ラクダなど家畜の数は富の象徴だったそうです。食肉の生産消費は牛肉、馬、羊が中心で、イスラム教徒が多いことから豚肉の消費はないとのことです。食肉とパンが中心の食文化であり、伝統的な食肉加工から近代的な加工品製造に変化してきているそうです。
カザフスタンでも健康寿命を長くする観点から、高齢者のタンパク質摂取が推奨されている一方、高齢者の半数が食肉加工品の咀嚼に困難があるというデータがあり、食べやすく機能性もある加工品の研究開発にも取り組まれているそうです。また、塩分摂取量が日本同様に国際推奨量を上回っているそうで、カザフスタンでは推奨量の約4倍の17 gの摂取があり(参考:日本10 g)、植物由来の新たな塩味の研究についてもご紹介頂きました。

Makangali氏の講演の様子
講演後、座長の有原先生より、日本では機能性食品など食品加工技術が進んでいるが、カザフスタンでは食品産業を二次産業の基幹として振興することに力を入れており、日本との連携が期待されているとのことで、懇親会での積極的な交流が呼びかけられました。
理事長の松石先生から共同研究者の方々も含め記念品が手渡されました。

記念品と共に集合写真を撮りました
全てのセッションが終わり、閉会式が執り行われました。閉会式では、松石理事長より今回の学会を締めくくるご挨拶がありました。たくさんの方々にご参加いただき、さまざまな分野の研究者・学生が一堂に会したことへの感謝が述べられました。幅広く、非常にさまざまな演題が発表され、それぞれに対して活発な討議が行われたことに大きな意義を感じられる場面があったことが述べられました。また、カザフスタンとの交流をはじめとした国際的な視点の広がりにも言及され、今後の連携や研究交流の可能性について期待が寄せられました。最後に、本学会を支えてくださった関係者・発表者・参加者すべての皆さまに改めて感謝を述べ、閉会の言葉とされました。閉会式の最後には優秀発表賞受賞者の発表がありました。本大会では若手優秀発表賞に加え、新たに年齢制限がない優秀発表賞(企業部門)があり、受賞者は松石理事長より表彰状を授与されました。以下の2名が受賞されました。おめでとうございます。今後の活躍がますます期待されます。
企業部門
和賀 正洋氏(伊藤ハム米久HD株式会社)
「ミオグロビンの酸素親和性が食肉の色調安定性に及ぼす影響」
若手部門
三浦 宏太氏(株式会社キティ・新潟大学大学院自然科学研究科)
「畜肉軟化剤をも高圧解凍が冷凍鯨肉の品質に及ぼす影響」
大会終了後には研究交流会が開催され、食肉科学技術研究所の小原健児副理事長の乾杯の挨拶で始まり、熱い研究の話で大いに盛り上がりました。交流会では優秀発表賞受賞者の表彰もありました。また、本学会が共催するミートジャッジング競技会で日本食肉科学会理事長賞を受賞した井上桜さん(北海道大学農学部)が大会に招待され、交流会で挨拶しました。食肉業界のホープとして期待されます。

乾杯の挨拶をする小原副理事長

企業部門優秀発表賞を受賞した和賀会員と松石理事長

若手部門優秀発表賞を受賞した三浦会員と松石理事長

挨拶をする北海道大学の井上さん