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【シンポジウム報告】令和6年日本食肉科学会秋季シンポジウム

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多くのご協賛を頂き日本食肉科学会秋季シンポジウムが2024年9月19日(木)に京都大学益川ホールにて開催されました。ご協賛下さいました企業関係各位に厚く御礼申し上げます。

 

<特別企画>

「ショーケースの無い精肉店と自然対流式の枝肉熟成庫の見学会と試食会」

午後から開催される秋季シンポジウムに先立ち、和牛肉や豚肉の乾燥熟成肉を販売している精肉店「京中(京都中勢以)」の見学と、直営レストランの「京中 月(にくづき)」での試食会が開催された。急遽開催された企画であったため、参加者は9名(大学関係3名、民間企業4名、加藤氏の知人2名)とこぢんまりとした見学会であったが、実際に乾燥熟成庫に入れていただき、様々なノウハウなどを包み隠さず説明していただいた。

京都 中勢以の店構え

店主の加藤謙一氏は、博労(牛の仲買)として4代目、精肉店として2代目で、近畿大学農学部を卒業後、コロラド州立大学でミートサイエンス修士号を取得し、アカデミックに精通したお肉屋さんであり、ご自身の食肉に対する哲学は経験だけではなく知識にも裏付けられたものであった。

店主の加藤謙一氏

お店では、加藤氏自身が食肉市場で自分の目で見て、競り落とした但馬牛と但馬血統の濃い牛を年間70〜100頭、枝肉のまま乾燥熟成して販売している。京中の顧客及びターゲットにはB.M.S No.10以上の脂肪交雑が強いものは適さないとのことで、B.M.S No.は4〜7程度の過度に脂肪交雑が入っていないものを選んで熟成している。ただ、近年の黒毛和種では脂肪交雑が入りすぎているものが多数を占めており、数が少なくなり入手しづらいとのことである。このため、加藤氏の求める肉質を共に作れる農家さんと血統や餌を相談しながら牛を作り込み、市場で競り落としていることもある。京中さんでは、1981年の開店以来、米国のような強い風を当てながら乾燥熟成する方式ではなく、冷気が自然対流する熟成するスタイルで行っている。以前は店にショーケースでスライスした肉を並べて販売していたが、乾燥や変色、手間があることと、人口減少及び高齢化に伴い、小売販売が低下し、業務販売が多くなったことから、注文に応じてカットして販売している。15年前からは、和牛だけでなく、豚の乾燥熟成も行われているが、和牛と豚では肉質が異なり、豚はカビが入りやすいため、熟成庫は分けている。

牛枝肉熟成庫

店舗見学後、直営レストランに地下鉄で移動した。「京中 月(にくづき)」は東山の白川のほとり、知恩院の門前町に位置し、加藤氏のご両親が営んでいる。試食では、熟成和牛バラ肉のすき焼き御膳と、ミスジとブリスケットのステーキを堪能した。すき焼きは焼き目をつけてから味付けをする関西式であり、焦げ目のメイラード反応が風味の醸成に重要であることを説明していただいた。また、ステーキでは、和牛の乾燥熟成肉特有の香りや、それぞれの部位による肉質、味や香りの違いを加藤氏のレクチャーを聞きながら味わうことができた。

「月」店内で説明する加藤氏

試食の牛すき焼き御膳

乾燥熟成肉のステーキ

9時から12時過ぎまで3時間強の見学・試食会であったが、加藤氏の肉に対する熱い情熱を聞きながら、和牛の乾燥熟成肉の味、香りそして見た目と食感と、五感が刺激された特別企画であった。京中 加藤氏のご厚意に感謝いたします。

 

京都 中勢以(京中)

https://www.kyotonakasei.jp/

 

<秋季大会シンポジウム>

押田敏雄会員の進行により、まず有原圭三理事長による開会挨拶が行われた。猛暑の中、また、6月の北里大学での大会から短い期間であったにも関わらず多くの参加者があったことに対する喜び、来春予定されている大会への積極的な参加の呼びかけがあった。また、伊藤記念財団の支援に対する謝意ののち、皆様にとって貴重な機会となることを願っています、との言葉で開会した。

にこやかに開会の挨拶をする有原圭三理事長

 

◆特別講演1 令和5年度伊藤記念財団賞受賞講演(座長:上田修司会員)

「機能性に基づいた食肉の付加価値向上および持続可能な食肉生産に関する研究」

南九州大学健康栄養科学部の竹之山愼一会員から、受賞対象となった上記タイトルの業績についてご講演頂いただいた。まず竹之山先生の身の上話から始まり、和やかな雰囲気で講演が始まった。大きく3つのテーマについて研究成果のお話があり、1つ目は「食肉・食肉製品の共役リノール酸に関する研究」と題して、機能性を有するCLAを正確に定量するためのメソッドの確立や反芻家畜由来の食肉製品や乳製品に多く含有されていることを解明したことについてお話しされた。2つ目は「食肉タンパク質の機能性に関する研究」と題して、食肉タンパク質の分解物の抗酸化作用に着目し、血圧上昇抑制効果や血糖上昇抑制効果を見出し、食肉・食肉製品摂取が健康維持に重要であることを示したお話があった。3つ目は「食品副産物の給与により生産された食肉の品質・栄養特性に関する研究」と題して、南九州地域、特に宮崎県の食品副産物の有効利用に関して、ワイン搾汁残渣の抗酸化作用による食肉組織中のビタミンE増加やヘベス搾汁残渣給与による豚ロース肉中遊離アミノ酸含有量増加など食肉の付加価値向上につながる研究成果についてお話しいただいた。最後に関係各位への謝辞で講演は終了した。受賞誠におめでとうございます。

ご講演される竹之山会員

 

◆特別講演2 国際会議の参加報告(座長:坂田亮一会員)

「第70回国際食肉科学技術会議(ICoMST2024)in Brazilに参加して」

まず麻布大学獣医学部竹田志郎会員より大会の概要、雰囲気や印象的だったことについてお話があった。大会会場であるイグアスは成田空港からアメリカ・サンパウロ経由で24時間もかかったこと、ブラジルは改めて畜産大国であることを感じたこと、などの感想が述べられた。配布された大会グッズなどについても紹介があり、ICoMST神戸大会のものはよくできていたのではないかと日本での大会の頑張りを讃える一幕もあった。学会要旨についてもお話があり、大会期間中には公開されておらず、不便を感じたとのこと。ポスターセッションは259題、ポスターのうち口頭発表が20題あり、特に興味のあった2演題について簡単に紹介された。ご自身のポスター発表で感じたこととして、英語力が重要であり、発表内容について先行論文が出ていると会話が弾むなどが挙げられた。Scientific tourでは竹田先生は養豚、と畜、製品加工、販売を行っているFriella社の見学ツアーに参加し、松石先生はFederal technological universityの研究室紹介に参加したとのお話があり、最後にカウベルが次回スペイン大会の会頭であるMonica先生に無事に渡った写真があり、次回も積極的に参加しましょうとのお話があった。

ご講演される竹田会員

続いて日本獣医生命科学大学松石昌典副理事長よりコンタクトパーソン会議における大会運営や組織編成についてのお話があった。各国のICoMSTの連絡担当が参加し、前回大会の報告、今回大会の現状、次回以降の進捗状況について収支状況も含めて紹介された。また、Meat Science誌のEditorであるHopkins先生より雑誌の現状や投稿のコツなどをお話しされたそうで、Meat Science連敗中の筆者(小宮)としては(しかも全てEditor kick)、ぜひ直接耳に入れておきたい話である。イタリアのZotte先生から世界食肉機構の立ち上げについての提案があり、持続的な運営を確立しつつ、消費者に対して食肉のネガティブなイメージを払拭し、正しい情報を伝えることができるオープンな機構を目指す、と紹介された。最後にブラジル大会への参加する機会をいただきありがとうございますと感謝の意で結びとなった。次回のスペイン大会、積極的に参加しましょう。

ご講演される松石副理事長

 

◆特別講演3 「食肉加工プロセスと筋肉タンパク質」(座長:水野谷航会員)

東京大学大学院農学生命科学研究科の小南友里先生より食肉(魚肉)の凍結処理について興味深い知見が紹介された。先生は魚肉を中心に研究されてきたが、食肉と共通する骨格筋組織に焦点を当てており、凍結後の筋肉組織の変化に関する重要なポイントについてお話があった。凍結速度よりも凍結保管温度・期間や凍結前の生化学・生理状態(活締めか苦悶死かなど)が氷結晶の生成に関与しており、解凍後の品質に大きく影響することは驚きであった。また、食肉の熟成期間のタンパク質の分解について、Troponin Tを分解の指標として、11箇所の分解箇所を発見し、分解箇所付近のペプチド配列から切断酵素を推定できるメソッドを確立したことについて説明があった。この手法を用いて、牛肉の解凍後の熟成期間に働いているプロテアーゼの貢献度を算出したところ、0日目ではカルパインが積極的に、10日目ではカテプシンが働いていることが明らかになったとのことだった。難しい数式も出てきたが、非常にわかりやすく解説いただいたので理解することができた。最新のデータに基づく非常に貴重なお話を伺うことができ、フロアからも多くの質問が寄せられ、関心の高さが伺えた。筆者自身も、この講演を通じて、従来の知識を常にアップデートすることの重要性を再認識した。

ご講演される小南先生

 

◆特別公演4 Advancements in Meat Research in Malaysia: Exploring Opportunities Addressing Halal Challenges and Shifting Consumer Preferences(座長:上田修司会員)

マレーシア大学(Universiti Kebangsaan Malaysia, UKM)のSalma Mohamad Yusop先生にマレーシアにおける食肉研究の動向および消費者に対応したハラール基準の設置についてお話ししていただいた。今回は、Yusop先生にはオンラインでご講演していただいた。マレーシアでは輸送、輸出を見据えたエイジングの研究から代替タンパク質源に関する研究など幅広く食肉研究が発展してきていることが説明された。また、UKMでは中小企業との連携も大事にしており、地元の畜産物の評価等にも力を入れ、大学が中心となりマレーシア国内の畜産力を向上させる取り組みが行われていることを知ることができた。後半は、マレーシアおけるハラール認証制度についての説明があった。ハラール製品に対する消費者の意識や需要を高めるために、と殺方法を徹底したマレーシアスタンダードを作成し厳格な基準を設けているとのことであった。基準が守られていることを監督する機関もあり、ハラール基準の遵守はマレーシア国内のニーズだけでなく、世界中で求められており、今後の食肉消費や流通にとって重要な仕組みであることが考えさせられた。

Yusop先生のご講演の様子

 

◆特別公演5 兵庫県の畜産のあゆみ〜神戸ビーフの話題提供〜(押田敏雄会員)

兵庫県立農林水産技術総合センターの大崎茂氏に、但馬牛から神戸ビーフまでこれまでの兵庫県でのあゆみと現在の取り組みについて紹介いただいた。はじめに、但馬牛の歴史は鎌倉時代にまで遡り長い歴史を知ることができた。現在では兵庫県によって種雄牛の一元管理されており、但馬牛の中でも神戸ビーフの定義に認められたもののみが神戸ビーフとして流通できることが説明され、ブランド管理の重要性について考えさせられた。さらに神戸ビーフの輸出は右肩上がりで、特にイスラム圏への消費が伸びていることが紹介された。育種改良は但馬牛のみで進めてきていることから、閉鎖的な育種により遺伝子多様性を維持していくことが大変であることがうかがえたが、より長く続くように系統分類を確立するなど努力されていることが分かった。また、肉質の評価として近年、モノ不飽和脂肪酸割合の測定やミラー型撮影装置を用いてロース芯の小ザシを数値化した細かさ指数により育種価を算出することにより、選抜に活用している事例も紹介いただいた。

ご講演される大崎氏

 

最後に、松石昌典副理事長より閉会挨拶がありました。各講演に対するコメントおよび関係各位への謝意、引き続き新規研究や更なる交流をもって国際的に食肉科学分野を発展させていきましょうとの言葉があり、シンポジウムの結びとなりました。

 

大会終了後には意見交換会が開催され、本シンポジウムの世話人坂田亮一会員の乾杯の挨拶で始まり、熱い研究の話で大いに盛り上がりました。

意見交換会での乾杯

2024年10月07日