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食肉用語の解説食肉の香り(におい)

食物を摂取するときに,私たちは味と香りを明確に区別していません。しかし,鼻が詰まって食事の味が分からないことがあります。これは,味ではなく香りを感じないためです。そう考えると香りがいかに大切なものかが理解出来ると思います。通常,香りという言葉はポジティブな印象を与えるので,ここでは「におい」と表現することにします。

新鮮な生肉ではほとんどにおいを感じることはありませんが,僅かな酸臭や血液臭を有しています。いっぽう,加熱調理することで様々なにおいを有する物質が生成されます。この時のにおいの元となるのは,非揮発性のアミノ酸,ペプチド,ビタミン,核酸,糖であり,これらは加熱による化学反応により,単独あるいは互いに反応することで揮発性を持ったにおい物質に変化します。ここに脂質由来の成分が関与して食肉としてのにおいを形成することになります。動物種によるにおいの違いは,この脂質を構成する脂肪酸が重要な役割を果たします。食肉のにおいは,動物種により特徴的な成分があるわけではなく,量的なバランスが異なるためと考えられています。豚肉は牛肉と比較してリノール酸など多価不飽和脂肪酸1)割合が高いこと,羊肉では4-メチルオクタン酸や4-メチルノナン酸といった分枝鎖を含む脂肪酸が多いことなどが食肉のにおいを特徴付けています。脂肪酸から派生する物質はにおいを有するだけでなく,他の揮発性の高い物質と結合することで,そのにおいの強さを調整しているとも考えられています。また,脂質以外の要因として,システイン,メチオニン,グルタチオン,タウリン,チアミン(ビタミンB1)など分子構造の中に硫黄を有している化合物が挙げられます。これらは加熱による化学反応により硫黄を供出し,少量でもにおいを感じるような化合物の形成に使われます。羊肉ではこのような硫黄を含むにおい物質が多いこと,豚肉ではチアミンが牛肉の10倍程度含まれることなどが食肉のにおいに影響していると考えられます。

 

1) 多価不飽和脂肪酸:脂肪酸の分子構造の中で2個以上の不飽和結合を持つものの総称で酸化しやすい性質をもつ脂肪酸です。

 (農研機構 渡邊彰)