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【大会報告】第64回大会

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多くのご協賛を頂き第64回大会日本食肉科学会大会は2023年3月25日(土)に日本獣医生命科学大学を会場とし、対面開催されました。ご協賛下さいました企業関係各位に厚く御礼申し上げます。

2019年に実施された第60回大会からおよそ4年ぶりの対面開催となる本大会でした。全体司会の新潟大学西海理之会員、茨城大学宮口右二会員の進行により進められました。

まず、坂田亮一理事長による開会挨拶が行われました。開会の宣言とともに、就任から新型コロナウイルスの世界的蔓延により本大会が初めての対面大会であること、ICoMST2022の神戸での実施、本会の学会化事業などについてお話がありました。

開会挨拶を行う坂田理事長

午前のセクションでは、座長の帯広畜産大学の島田謙一郎会員と日本獣医生命科学大学の江草愛会員の進行で7題の若手優秀発表がおこなわれました(6題が若手優秀発表賞の対象)。若々しい演者によるフレッシュな発表と活発な討論が行われました。各演題は以下の通りです。

(1)クエン酸・加温処理による天然豚腸ケーシングの軟化改善効果

  劉 文君(新潟大学大学院自然科学研究科)

(2)高圧処理が低塩豚肉ゲルのテクスチャーならびに加熱ゲル形成挙動に及ぼす影響の検討

  王 瑋童(新潟大学大学院自然科学研究科)

(3)熟成により増加する遊離アミノ酸は食肉の味に影響するか

  石田 翔太(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)

(4)牛肉ゲル特性に対する食塩、リン酸塩および高圧処理条件のRSMモデリング

  オクール・ガムゼ(新潟大学大学院自然科学研究科)

(5)豚肝臓における亜鉛プロトポルフィリンIX形成機構に関する研究

  阿部 悠(北海道大学大学院農学院)

(6)加熱食肉製品における卵殻膜ペプチドの発色促進効果とその機序について

  神田 哲平(麻布大学大学院獣医学研究科動物応用科学専攻)

(7)溶媒中のイオンが水溶化したミオシンの溶解性に及ぼす影響

  宍戸 雄(北海道大学大学院農学院)

若手優秀発表の様子

 

午後の初めのセクションでは、座長の国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の佐々木啓介会員と北海道大学の早川徹会員の進行で5題の一般研究発表が行われました。様々なジャンルから興味深い研究が報告されました。各演題は以下の通りです。

(1)玄米と酒粕の給与がブロイラーの肉質に及ぼす影響

  本田 和久(神戸大学大学院 農学研究科 資源生命科学専攻)

(2)電子味覚システムを用いたウインナーソーセージの味の可視化

  中田 悠介(プリマハム株式会社 基礎研究所)

(3)ブタ線維芽細胞を用いた肉様組織化の検討

  岩元 正樹(プリマハム株式会社 基礎研究所)

(4)AMPによるアクトミオシン解離機構の検討

  小林 優多郎(日本獣医生命科学大学 応用生命科学部)

(5)ミトコンドリアがdark-cutting beefの色調に及ぼす影響

  和賀 正洋(伊藤ハム米久ホールディングス株式会社)

一般研究発表の様子

 

特別記念講演Iでは、神戸大学の上田修司会員による第7回伊藤記念財団賞受賞講演(共催(公財)伊藤記念財団)がおこなわれました。本講演は『畜産物の品質評価、付加価値の向上に向けたメタボロミクス技術の応用に関する研究』と題され、酪農学園大学の岩崎智仁会員を座長として、進められました。

ご講演では、生体内に含まれる代謝物(糖質、アミノ酸、有機酸、脂肪酸)の網羅的解析(メタボロミクス)が目まぐるしく進歩していく中、畜産分野において畜産物の品質評価や付加価値の向上に向けたこれまでの上田会員の取り組みについて紹介していただきました。

黒毛和種牛肉の分析で脂肪組織と筋肉組織の分離等に苦労された経験や、分析設備等が限られた中での技術の立ち上げについての経験など、畜産物のメタボロミクスの実用化において奮闘されてきたお話から始まり、数々の苦労や困難を乗り越えて本受賞に至るまでの研究の成果について話していただきました。

上田会員は、メタボロミクス技術を駆使して、黒毛和種牛肉の特徴的な香りであるラクトン類と相関する低分子代謝成分(グルタミン酸やデカン酸は正の相関を示し、乳酸やヒポキサンチンは負の相関を示す)を発見し、これらの成分が牛肉の甘い香りの指標になることを明らかにしました。加えて、ラクトン類の形成に関して、牛肉中の脂肪酸組成が影響を与えていることを見出しました。

メタボロミクス技術により食肉品質の特徴となる代謝物を見つけ出し、その点を深く追求する一連の研究過程をご説明いただき、畜産物加工や食肉流通に貢献していきたいとの今後の研究展望が述べられ、さらなる研究の発展が期待されました。

講演を行う上田修司会員

 

続いて海外特別講演として、イタリアPadova大学教授で、2023年のICoMSTの大会長を務められるAntonella Dalle Zotte先生より、Traditional Italian meats and cold cuts: a valuable support for economic sustainability and/or animal biodiversity(伝統的なイタリアの食肉と冷製食肉加工品:経済的持続可能性と動物の多様性)と題した講演を頂きました。

講演を行うZotte氏

座長の松石昌典会員(日本獣医生命科学大)による、Zotte先生の輝かしいご略歴の紹介を受け、まずご挨拶とこの度の来日機会に対する学会への御礼がありました。

ご講演冒頭、今年8月20~25日にイタリアPadovaで開催されるICoMST(International Congress of Meat Science and Technology)について熱のこもったご紹介がありました。開催方式は、コロナ禍以前の対面形式に戻るようで、ICoMST神戸大会にもお越しいただいたICoMST国際事務局長Troy先生(アイルランド)を司会としたパネルディスカッションなどを特徴としたプログラムが予定され、テクニカルツアーも充実した内容のようでした。神戸大会からまだ半年ちょっとしか経っていませんがコロナ禍も大分落ち着いてきた様相で、対面でも問題なく学会開催できる情勢になってきたことを感じました。

次に、イタリアの伝統的な食肉生産とその特徴について、沢山の写真を交えてご紹介頂きました。

まず、イタリアの食肉生産・消費に関して日本と比較しながら紹介があり、鶏肉・豚肉・牛肉・馬肉の生産・消費の規模は日本と大きく変わらないが、ウサギ、ウズラが異なる点であることが紹介されました。(ウサギ、ウズラはイタリアの特徴的な食肉であり、後ほどさらに具体的な説明がありました。)

そして、イタリアの食肉を特徴づける点について、紹介がありました。

まず1つ目として、イタリアの認証家畜品種について、特に牛品種であるピエモンテとキアニナの説明がありました。

ピエモンテは1976年に登録され、1866年にBelgian Blueからダブルマッスルの変異が入り、枝肉歩留まりが70%と高く、赤身でやわらかく、低コレステロール、高Feの食肉生産ができるそうです。

また、キアニナ(Chianina)は最古の家畜にして最大の牛(体高2 m、体重1.7t)であり、2200年にわたり飼養されており、増体が良いため(2 kg/日)アンガスとの交雑に広く用いられているそうです。18部分肉がキアニナコンソーシアムのロゴ入りで流通しています。

これらの伝統的品種は、①強靭性、②遺伝的多様性、③歴史的・文化的価値、④栄養性・官能特性・経済性、に優れているとのことです。

2つ目として、イタリアの特徴的な食肉消費である、white veal、馬、ウサギ、ウズラ、冷製食肉加工品について説明がありました。

White vealは古くから食され、古代壁画にも仔牛が見られ、イタリア中央山地の裾野に広がる平地の穀物生産の副生物利用で乳生産がおこなわれ(パルミジャーノレッジャーノやグラナパダーノ生産)、副産物であるオス仔牛がwhite veal生産に利用され、牛肉の10%を占めているとのことです。牛肉を白くしたいが、アニマルウェルフェアの観点から、血液中のヘモグロビン含量が4.5 mmol/lを下回らない栄養管理が義務付けられています。

豚品種のCinta Seneseは、1340年のフレスコ画にも描かれており、と畜頭数はここ20年で増え、8000頭/年とのことです。

また馬は、紀元前からcircus racingのためVeneti族は馬の育種技術で知られ、馬やロバの食肉加工品も生産されVenetian料理やイタリア料理の重要な食材である、馬用と畜場があるとのことです。

ウサギは現在はハイブリッド品種が用いられている。ケージ飼い、舎飼いどちらもある。出荷は11週齢2.8 kgで専用と畜場があります。中国は家兎肉生産を輸出向けのみにおこなっており、イタリアは中国から輸入もしています。家兎肉は、Na、コレステロール、Feが少なく、Se、B12、リンが豊富という特徴があり、消費量は年間0.52 kg/人で減ってきており、アニマルウェルフェアの点からケージ飼いできなくなり費用面から農家数も減っているとのことです。

ウズラは、年間と鳥数は12.6百万羽で、出荷は260 g、35日齢。魚肉ほどではないが、n-6/n-3が9.3と高い特徴があります。

伝統的な冷製食肉加工品についは、時間の関係で概要のみ説明があり、1)加熱ハム、2)乾塩せきハム、3)モルタデラ、4)サラミ、5)スペック、に大別され、これらの消費量は併せて年間11.3 kg/人とのことです。

また、イタリアの食肉生産を特徴づけている保護原産地呼称制度(EUスキーム)についても触れられ、Protected Designation of Origin(PDO)はイタリアが認証数トップ(21加工品、1精肉)、Protected Geographical Indication(PGI)は5つとのことで、中には紀元前の記録が残っているものもあるとのことです。

最後にまとめとして、伝統的なイタリアの食肉と冷製食肉加工品は、経済的重要性が高く(300億ユーロ/年)、伝統的な製造では小規模農家が必要で持続可能な農業にも貢献していることに加え、地中海食ピラミッド(赤肉を2回未満/週、冷製食肉加工品1回未満/週を摂取)が最後に紹介され、イタリアのバランスの良い食構成の中の食肉の位置づけについても確認されました。

座長から家兎肉の消費が減っている理由について尋ねられ、「家族サイズが変わり、祖父母のいない家族が多くなったことや、若い女性が働くようになり家にいなくなったことが少しずつ違いを生んでいるのかも知れない。環境負荷の問題等を背景にベジタリアンが増えたこと、若者が肉を敬遠していることなども影響しているのでは。」とのコメントがありました。

講演終了後に筆者が、White vealはアニマルウェルフェアの問題になっていないのか尋ねたところ、「栄養管理などきちんと規制を守って生産しているので問題にならない」との回答も頂きました。

歴史の大変長いイタリアの食肉に関する幅広いお話を頂くことができました。日本では食べることのできない食肉、食肉加工品が沢山ありそうです。是非ICoMST2023に参加して、食べてみたいです!

講演後に記念撮影を行いました。左から有原副理事長、Zotte氏、坂田理事長、松石副理事長。

 

全てのセクションが終了し、若手優秀発表賞の表彰がありました。以下のお二人が受賞されました。おめでとうございます!フレッシュなお二人の今後の活躍が期待されます!

・阿部 悠さん(北海道大学大学院農学院)「豚肝臓における亜鉛プロトポルフィリンIX形成機構に関する研究」

・石田 翔太さん(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)「熟成により増加する遊離アミノ酸は食肉の味に影響するか」

若手優秀賞を受賞した阿部 悠さん

若手優秀賞を受賞した石田 翔太さん

最後に有原圭三副理事長より閉会挨拶がありました。坂田理事長の本会の学会化やICoMST2022の実施に奔走されてきたことを讃え、今後は日本学術会議からの認定を目指し、引き続き本会を盛り上げていきましょう、とお話がありました。また、イタリアで開催されるICoMST2023について積極的な参加をお願いしますとの言葉があり、大会の結びとなりました。

閉会の挨拶を行う有原副理事長

以上、第64回大会のご報告とさせていただきます。最後までお読みくださり、ありがとうございました。

2023年04月03日