【シンポジウム報告】日本食肉科学会シンポジウム2023
2023年9月21日に帯広畜産大学 食品加工実習工場にて「日本食肉科学会シンポジウム2023」が開催されました。本シンポジウムは対面形式で実施され、参加人数は38名でした。
島田謙一郎会員の進行のもと、有原圭三理事長による開会挨拶が行われ、次年度大会が十和田市の北里大学で開催されることが発表され、積極的な参加が募られました。その後、シンポジウム講演が3題行われ、帯広畜産大学の食品加工実習工場の見学および生ハムの試食が行われました。
(1)第69回ICoMSTイタリア大会の報告
神戸大学の上田修司会員と日本食肉科学会前理事長・麻布大学名誉教授の坂田亮一功労会員による第69回ICoMSTイタリア大会の報告が行われました。
まず、上田会員よりイタリア大会の概要と得られた内容について紹介していただきました。イタリア北部のパドヴァで開催され、世界遺産や古代都市の遺跡が多く存在し、魅力的な歴史と文化に触れられる、風光明媚な風景に優れた都市であったことが写真と共に紹介されました。開催前に行われたPre-congress graduate courseでは2日間学生や若手研究者向けに食肉産業や食肉科学に関する講義中心のイベントが開催され、日本からは1名の学生が参加したことが報告されました。Scientific programでは3日間で14のセッションが行われ、食肉科学の先進的な研究成果の発表の中でも特に印象的な2演題を紹介していただきました。またバスツアーでは、本大会のスポンサーであったGalloni社のパルマハム工場を見学し、伝統を重んじた製法と厳密な品質管理に感銘を受けたことをお話していただきました。
続いて、坂田功労会員からは、Chairperson Meetingに出席した内容を報告していただきました。ハイブリッド形式で行われた昨年の神戸大会の時と比較した内容で、本大会の規模や運営の様子についてわかりやすく説明していただきました。本大会の参加者は44カ国約550名で、約440題ほどの演題発表であり、組織委員会は少人数体制であったにもかかわらず、円滑に会議の運営を執り行われていたことをお話いただきました。また、次大会について、2024年大会はブラジル、2025年大会は韓国で開催されることが決定していることが紹介されました。
最後に、本大会には日本からの17名が参加し、学生を含んだ若手研究者が多かったとのことでした。海外研究者と直接交流した経験は大きなものであったとお話しいただき、今後も国際会議に積極的に参加することで若手研究者の活躍の場が広がることが期待されました。
(2)北海道生まれ“北海地鶏”のこれまでとこれから
北海道立総合研究機構畜産試験場の佐藤駿氏に、北海地鶏の作出から北海地鶏肉の加工への取り組みなどをお話ししていただきました。はじめに、鶏肉の区分について説明いただき、その中でも地鶏はその他肉用鶏に含まれ日本農林規格(JAS)で生産条件が定められていることが説明されました。北海地鶏は1992年に開発されてから、産肉性の向上や適度な歯応えや程よい脂のりを持つ高品質な鶏肉を目指し、2006年に北海地鶏Ⅱ、2018年に現在の北海地鶏Ⅲ(大型シャモ×名古屋種とロードアイランドレッドの交雑鶏)を作出されたことを紹介していただきました。次に、北海地鶏Ⅲの肉質特性についての説明がありました。北海地鶏はイノシン酸やイミダゾールジペプチド含量が多く、「歯応え」や「旨味の強さ」、「機能性成分含量」がブロイラーよりも優れた特徴を持つことが示されていました。また、北海地鶏は飲食店向けに主に利用されるとのことでしたが、このような肉質特性を活かし加工品(コンフィや鶏めし)への利用を取り組んでいることを紹介していただきました。試作した加工品の理化学分析や官能評価を行い、加工後も肉質特性が維持されることが確認され、北海地鶏の新たな利用が考えられることが示されていました。最後に、会場に配られていた北海地鶏のガイドブックの紹介があり、講演内容であった肉質の特徴や加工品の掲載だけでなく、家庭での調理レシピや北海地鶏を提供する飲食店が掲載されており、今すぐにでも食べに行きたくなりました。
最後に質疑応答の中で、農場ごとのばらつきや飼養管理について話題が上がりました。対策として飼養管理マニュアルの作成等で対応するなどをご回答いただき、高品質な地鶏の安定的な生産、供給のコントロールについても重要な課題であることを改めて考えさせられるご講演でした。
(3)十勝生ハム製造研究所における生ハムの製造とその技術
帯広畜産大学の名誉教授である三上正幸会員より、帯広畜産発のベンチャー企業として設立された(株)十勝生ハム製造研究所の歴史や製造技術についてご講演いただきました。本研究所は2006年11月に設立され、2022年8月に解散されましたが、「本当に美味しいものを、人を幸せにできるものを作りたい」の信念のもと、骨付生ハムをはじめとし、セミドライソーセージやドライソーセージなどの製品を製造されてきました。「生ハム」という食肉製品の定義はJAS規格や食品衛生法には存在しておらず、1982年に「非加熱食肉製品」の形で生ハム製造が国内で許可されたが、その製造方法はラックスハムタイプのもので、骨付もも肉を想定していないものでした。三上会員は1998年バルセロナで開催されたICoMSTで生ハムに感銘を受け、骨付の生ハムについての研究および製造に注力されてきました。十勝産のホエー豚の骨付もも肉(寛骨は除く)を使用し、亜硝酸ナトリウムは使用せず食塩のみを使用したり、先端の脂肪層を少しだけトリミングすることで赤肉と脂肪が剥離しないように工夫したりするなど、随所に美味しい生ハムを作るためのこだわりが見られました。また、科学的にも美味しさを実証されており、熟成に伴う遊離アミノ酸やペプチドの増加についてのデータが紹介されました。生ハムへの愛と情熱に加え、生ハム製造を一から学ぶことのできる貴重なご講演でした。ちなみに、古いものでは2007年に作製した生ハムが現在も熟成中とのことで、機会があれば是非とも口にしてみたいです。
(4)施設見学&試食会
島田会員の引率により、帯広畜産大学の食品加工実習工場の見学を行いました。この施設では、と畜と解体、食肉加工に加え乳製品加工に関して生産から製品に至るまでの一連の過程を学ぶことができるとのことです。施設内は非常に清潔に保たれており、管理者の献身的な取り組みが感じられました。試食会ではおよそ4年半熟成した生ハムの原木から、三上会員がスライスして提供していただきました。切り立ての生ハムに参加者一同が楽しんでいました。
シンポジウム後には、懇親会も開催され、熱い議論が交わされました。