食肉用語の解説食肉の色
食肉の色は,筋肉色素と呼ばれるミオグロビン(Mb)によって主に左右されます。Mbの含有量は畜種をはじめ,年齢,性別,筋肉部位,運動量によって異なります。野生動物の筋肉はよく運度し酸素を消費してエネルギーを生み出すので,酸素貯蔵のためにMbを多く含み濃赤色を呈します。Mbは153個のアミノ酸からなるグロビンというタンパク質1分子と色調を発現させるヘム1分子で構成され,血液色素のヘモグロビンとあわせてヘム色素あるいはヘムタンパク質と総称されます。へムは,ポルフィリンまたはプロトポルフィリンといわれる骨格の中心に鉄原子が位置した構造を有しています。その鉄の荷電状態と,これに結合する分子や基によってMbの色調が変化し,食肉や食肉製品の色調が決定されます。
死後,酸素の供給が断たれ肉中の酸素がすべて消費される結果,新鮮肉の切断面は還元型のデオキシMbによるやや暗い感じの紫赤色を呈します。そして表面が空気に触れると次第に酸素が結合し,酸素型のオキシMb(MbO2
)を生じて鮮赤色に変化します。この反応を酸素化と呼び,肉色が明るく美しくなるのでブルーミング(開花)ともいいます。MbO2
はかなり安定ですが,長時間後には徐々に自動酸化が起こり,酸化型のメトMbへと変化し、肉色は褐色になります。また食肉を調理するとき観察されるように,加熱することによって食肉の色調は赤色から褐色に急速に変化します。この現象は,Mbのグロビン部の熱変性によってヘム鉄が2価から3価に容易に酸化され,その結果,褐色の変性グロビンヘミクロムを生ずるからです。
ハムやソーセージなど塩漬を行った時の肉色は,亜硝酸の還元によって生じた一酸化窒素(NO)とMbが結合したニトロシルミオグロビン(NOMb)によるものです。さらに加熱したハムやソーセージでは,NOMbのグロビンの部分が加熱変化したニトロシルヘモクロムの赤色を示します。発色剤を用いず海塩のみで塩漬けされ,長期間熟成して製造されたパルマハムなどは薔薇色を呈します。このように発色剤無添加にも関わらず美しい色が発現する理由は,Mbのヘム鉄が亜鉛と置き換わったZn-ポルフィリンであることが近年明らかにされました。
以上のようにMb中のヘム色素の酸化還元反応,あるいはNOの結合が食肉や食肉製品の色と重要な関係を持っています。 (三木 優・坂田亮一)