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【大会報告】第62回大会

Newsイベント告知・イベントレポート

多くのご協賛を頂き日本食肉研究会大会は令和3年3月27日(土)に神戸国際会議場を配信会場としてオンライン開催されました。ご協賛下さいました企業関係各位に厚く御礼申し上げます。

食肉研究会大会は通常、日本畜産学会の関連学会として日本畜産学会大会の開催場所においておこなわれています。しかし、今年は日本畜産学会大会がオンライン開催になったことに伴い、関連学会大会としてではなく個別にオンライン開催する運びとなりました。参加登録人数は134名、視聴者は最も混んだ時間で90名程度でした。全体司会の新潟大学西海理之会員、茨城大学宮口右二会員の進行により、3つのセクション構成で進められました。

 

初めのセクションでは、坂田亮一会長による開会挨拶およびこの一年間の研究会の活動報告として、2022年8月に神戸で開催予定の国際食肉科学技術会議(ICoMST)主催に向けた準備や、研究会を学会へと発展させるための準備等、コロナ禍をものともしない活発な活動が紹介されました。次に、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 畜産物研究領域 食肉品質ユニット長の佐々木啓介会員による第5回伊藤記念財団賞受賞講演(共催(公財)伊藤記念財団)がおこなわれました。

本講演は『食肉の官能特性評価と消費者受容に関する研究』と題され、名城大学の林利哉会員を座長に、佐々木会員が官能特性と消費者について研究をはじめた経緯から、「おいしさ」を科学的に評価するための基本や、食肉の「やわらかさ」などの官能特性用語の定義付けとその定義に基づいた消費者嗜好のグループ化の研究、またそれらの研究成果を国産食肉の差別化に応用した例などについて、たくさんのデータに基づいて講演がおこなわれました。県等の公設試験場を含む多くの方と連携して得られた研究成果であることがとても印象的でした。今後の展望としてご紹介もありましたが、消費者嗜好を「測定可能な品質」として「つくる技術」と「売る技術」に活用するための技術開発が引き続き期待されます。

 

次のセクションでは、座長の北海道大学の若松純一会員と日本獣医生命科学大学の江草愛会員の進行で一般発表がおこなわれました。発表および討論は、大会参加登録者が研究会ウェブサイトでアクセス可能なe-ポスターの閲覧と、Zoomミーティングのブレイクアウトルーム機能によりおこなわれました。8題の若手優秀賞応募を含む計18題の発表があり、各発表ルームでは活発な討論に加え、前回大会がコロナ禍により中止となったため2年ぶりとなる再会に近況報告などの話にも花が咲いていたようです。

 

今大会でも海外の講演者2名をお招きし、セクション3として特別講演(Zoomウェビナー形式)が催されました。

まず、座長の松石昌典副会長の進行でWangang Zhang氏(南京農業大学教授、Meat Science副編集長)に『Protein post-translational modification in fresh meat: emphasis on the effects of S-nitrosylation on beef tenderness(生肉におけるタンパク質の翻訳後修飾:牛肉のやわらかさに対するS-ニトロシル化の影響に注目して)』と題してご講演いただきました。ご講演スライドは南京農業大学の充実した食肉加工場や実験室のご紹介に始まり、そこで研究がおこなわれている、タンパク質の主要な翻訳後修飾の一つである一酸化窒素(NO)結合(S-ニトロシル化)と生肉の品質との関係について、これまで得られた知見が紹介されました。

S-ニトロシル化はタンパク質の立体構造や機能発現に重要で、エネルギー代謝やカルシウムホメオスタシス、カルパインシステムなどに関係していますが、死後筋肉(牛肉)においてもNO合成酵素(NOS)活性が確認されており、高pHの牛肉でNOS活性が高く、S-ニトロシル化程度も高いことが分かっています。Gene Ontology検索結果からS-ニトロシル化は様々な細胞の代謝に関係しており、高pH 牛肉では解糖系のdown-regulationに関っている可能性があります。また、μ-カルパインのS-ニトロシル化は熟成中のμ-カルパインのautolysisを抑制する可能性があり、NOとS-ニトロシル化は牛肉のやわらかさに負の影響があると考えられます。筋肉から食肉への変換の最初のステップと考えられるアポトーシスにおいても、NOとS-ニトロシル化は熟成牛肉の核のアポトーシスを遅延させ、Caspase-3および-9の活性を低下させたことから、これらの経路でもやわらかさに影響を及ぼしていると考えられます。

研究会会員からは食肉試料のサンプリング方法やμ-カルパインのS-ニトロシル化サイトに関する質問がありました。食肉の軟化技術としての応用は、他の研究グループから羊肉をやわらかくするという報告があるとのことで、Zhang教授のグループでは今後の検討課題になるようでした。

 

特別講演の二題目は、座長の宮崎大学の河原聡会員の進行で、Peter McGilchrist氏(University of New England上級講師、豪州ミートジャッジング競技会委員長)に『Japanese consumer perception of Australian grass fed and Japanese Holstein beef(オーストラリア牧草給与牛肉と日本産ホルスタイン牛肉に対する日本人消費者の感じ方)』という演題でご講演いただきました。

日本はオーストラリア牛肉の最大の輸出先であり、オーストラリアの様々な品種や生産システムに起因する牛肉の多様性をどう扱うかや、輸出中の熟成技術などが、日本の消費者にオージービーフを受け入れてもらうためには重要な課題です。多様性を適切に扱うために、Meat Standard Australiaの格付システムには日本やアメリカ、ヨーロッパなどのシステムに比べて一番多くの評価項目が考慮されています。また、重量損失が多いので1960年代来しばらく用いられていなかったドライエイジングですが、肉質ではポジティブな結果が多いのでオーストラリアでもおこなわれており、ドライエイジングしたオージービーフに対する日本人消費者の好みを調査しました。札幌の消費者540人に、ウェットエイジング21日後にドライエイジングを35日した牧草給与オージービーフ、ドライエイジングのみ56日間おこなった牧草給与オージービーフ、北海道乳用種雄肥育牛肉(7日間熟成)を食べてもらい比較しました。とても印象的だったことに、北海道乳用種雄肥育牛肉はオージービーフとは異なり腰最長筋と胸最長筋の評価が揃っており、もも部位においてもカット間の評価の差がほとんどありませんでした。肉質も非常に高く、北海道乳用種雄肥育牛肉は7日間以上熟成させる必要はありません。オージービーフの長期熟成処理は、カット間の肉質の違いを小さくし、また、ドライエイジングのみ56日間おこなったものの方がフレーバーや全体的な好ましさが高いという結果でした。

オーストラリアのミートジャッジング競技会のご紹介もあり、競技会を通じて日本とオーストラリアの学生が交流できることを大変嬉しく思っており、グローバルに活躍する人材の育成に今後も力を入れたい、コロナ禍が明けまた交流を再開できることを願っていますとおっしゃっていました。

研究会会員から様々な質問やコメントがありましたが、特に多かったオージービーフと乳用種雄肥育牛肉の比較試験に関する質問に対しては、日本人消費者には牧草フレーバーが好まれなかったのかも知れない、乳用種雄肥育牛肉は月齢が若く脂肪含量が高いことがたぶん好まれた要因で、牧草給与オージービーフを頑張って熟成させても追いつきませんでした、今後オージービーフを売っていく戦略としてオーストラリアのスタンダードを改善する必要もあると思っている、とおっしゃっていました。また、日本は食肉の管理が行き届いていて素晴らしくその文化が好きである、オーストラリアでは食肉に対するwillingness to payが低くオージービーフの価格ではとてもできない管理である、とおっしゃっていたのも印象的でした。

 

今大会でも興味深い特別講演の時間はあっという間に過ぎ、閉会の時間となりました。有原圭三副会長より一言、初めてのオンライン大会となり心配もありましたが盛会となり、ICoMST日本開催を来年に控え、今年のポーランド大会ではハイブリッド(現地+オンライン)大会も経験することができますので、来年に向けて準備を引き続き頑張りましょうと、閉会挨拶がありました。

また、閉会挨拶に続き有原副会長より若手優秀発表賞表彰がありました。原則1名とのことですが高得点であった以下のお二人が受賞されました。

横山壱成さん(北里大学獣医学部)                                         ポスター番号4『加熱牛肉の香気および呈味に及ぼす放牧飼養の影響』

細田真菜さん(神戸大学大学院農学研究科)                                          ポスター番号15『黒毛和種の筋内脂肪パターン形成に関わる蛋白質の網羅的解析』

受賞にあたりお二人から一言ずつ頂きました。                                                               横山さん「オンライン発表で慣れませんでしたが頑張りました。若手として神戸ICoMSTでも頑張りたいと思います。」                                           細田さん「自分にとって初めての学会、しかもオンラインでしたが、たくさんの質問を頂いて沢山勉強になりました。これからも頑張っていきたいと思います。」                                           さわやかな若い方々の活躍が今後も楽しみです。

 

また最後に坂田会長から、長年にわたり研究会の庶務幹事として研究会を支えてくださった日本ハム・ソーセージ工業協同組合の松永孝光会員に感謝状が贈られました。松永会員からは20年間の思い出がぎゅっと詰まったご挨拶を頂きました。研究会大会はこれまで日本畜産学会大会の開催に合わせ年度末で、本務もお忙しかった時期・・・長い間大変お世話になりどうもありがとうございました!

2021年04月03日