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【大会報告】第60回日本食肉研究会60周年記念大会

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平成31年3月30日に麻布大学8号館100周年記念ホールにて、第60回日本食肉研究会60周年記念大会が開催された。

根岸晴夫会長による開会挨拶の後、今大会でも海外からの招待講演者2名による特別講演が催された。まず、スペインのInstituto de Agroquimica y TechnologiaのMonica Flores氏から「Aroma of wet and dry cured meat products: imprecation of current health trends and natural strategies for enhancement」という演題でご講演いただいた(座長:有原圭三幹事)。食肉および食肉製品における主要な香気成分の解明は、消費者の嗜好を理解するために不可欠である。スペインで広く食されるハムやソーセージなどの食肉製品は、製造時の塩漬方法の違いや添加物の有無によって大きく香りが変化する。また、食塩の量や亜硝酸塩の添加といった食肉製品の健康問題と香りの変化を関連付けた内容もお話ししていただいた。さらに、Monica氏は製造方法による香りの変化を「aroma wheel」としてまとめ(香りの変化を円グラフに模して解説したもの)、これは大変分かり易く、会場からも好評であった。講演後は、香気成分の生成機序や分析方法について、活発な議論が交わされた。十分成熟しつつある日本の食肉製品市場であるが、香りの観点から更なる品質向上の可能性を感じた。

にこやかに質疑に答えるMonica氏

続いて、デンマークのDanish Meat Research InstituteからLars L. Hinrichsen氏には「The industrial meat revolution – advanced technology will changes operations as we know it」という演題でご講演いただいた(座長:坂田亮一副会長)。デンマークでは、人口のおよそ5倍もの数のブタが飼育されており、食肉産業の規模もかなり大きい。豚肉の輸出量はここ10年ほど横ばいではあるが、従事者数は減少している。これには工場の技術革新が大きく関わっているとのことであった。背割り後の大分割や肋骨の除去は自動機械で行われているほか、背脂肪のトリミングなど品質が職人の腕に関わる部分もCTスキャンなどの技術を駆使し誰でも簡単に行える装置が開発されつつあるというデンマーク国内の現状についても触れられていた。さらに、牛肉の脂肪交雑もスキャニングにより評価し、「steak potential」を算出することも不可能ではないと話されており驚いた。日本も人口減少に伴う労働人口の低下が喫緊の課題であるため、このような技術導入または日本独自の技術開発が迫られていると感じた。

Lars氏(左)と座長の坂田副会長

特別講演の後、麻布大学学長の浅利昌男様、および畜産技術協会会長の南波利昭様よりご祝辞を頂き、午前の部が終了した。

午後の部は、根岸会長から会長挨拶として本研究会の60年の歩みが紹介され、改めて食肉業界からのご支援に対する感謝の言葉が述べられた。また、ここで功労者表彰があり、歴代の会長である服部昭仁元会長(第9代)、六車三治元会長(第10代)、山本克博元会長(第11代)および三輪操前会長(第12代)に対して表彰が行われた。

三輪前会長(右)と根岸会長

60周年記念講演として、三輪前会長から「食肉に関わる食品添加物のはたらきと安全性」という演題でご講演をいただいた(座長:根岸会長)。書籍や雑誌だけでなくインターネットなど、情報があふれている現代社会において、特に食品に関しては食品添加物に対する誤解や思い込みが多分にあることから、正しい理解を広めることの重要性を話された。元来食品添加物はその認可のために安全性試験などの実施が義務付けられており、安全性は担保されている。にも関わらず一般消費者に安全性に関する誤解が多いことは、そのことが知られていない実情があるためであり、本研究会も正しい情報の発信拠点となってもらいたいとの提言があった。

続いて一般研究発表がポスター発表形式で行われた。今大会では17題の発表があり、そのうち7題が優秀発表賞の対象であった。終了時間間際まで熱心な討論がなされた。

盛況なポスター発表の様子

第3回伊藤記念財団賞受賞講演では、河原聡会員による「牛肉脂肪の健康と食味性に及ぼす影響に関する研究」という演題で、河原会員のこれまでの食肉脂肪に関する研究について講演いただいた。ひと昔前は、動物性脂肪の摂取を控え、植物性脂肪の摂取を推奨する風潮があった。特にリノール酸に関しては、リノール酸の摂取が脂質関連疾患を改善するという“リノール酸神話”とも言うべき主張があったが、現代の食品の栄養性を分子レベルで評価するとこの主張は成り立たなくなり、むしろオレイン酸や共役リノール酸など食肉に含まれる脂肪酸の機能性に昨今は注目が集まっている。河原会員は、このような食肉の機能性の発見により食肉を食する機会となればとも話されていた。また、脂質と食肉の食味性にも着目し、取り組まれているとのことで、成分の多少や効果だけでなく、食べて美味しいかどうかという観点を大事にし、その上で美味しさに何が関わっているのか探求したいとの思いを述べられた。

受賞講演をする河原会員

最後に、西邑隆徳副会長より閉会の挨拶と同時に、優秀発表賞の表彰が行われた。今大会では「鶏ムネ肉を原料としたプラズマローゲン素材の開発と機能性の評価」で発表した木村仁美会員(丸大食品株式会社中央研究所)が受賞した。今大会は、133名(うち、学生16名)の参加があり、盛況のうちに閉会した。大会後、麻布大学生協カフェテリアいちょうにて、研究交流会が催され、海外からの招待講師を含め87名が参加し、親睦を深めた。

研究交流会の様子

麻布大学より加工品の差し入れ

 

2019年04月23日